渡辺豊重とヴォルス、鎌倉にて

      2010/09/16

鬼と遊ぶ 渡辺豊重展」神奈川県立美術館 鎌倉、「20世紀西洋版画の展開 キュビスムからシュルレアリスムそして抽象へ」神奈川県立美術館 鎌倉別館。友人T君と自転車で。

渡辺豊重展は、昨年から描かれている「鬼」シリーズに本展の為に新たに制作された30点を加えた「鬼」の集大成。最新作は、デカいカンヴァスにアクリルを重ねて、油彩でベタっと描いたものがほとんど。3本指の手足を持ち徹底的に黒く塗り潰された「鬼」は、渡辺の怒りの仮託。産経新聞のインタビューによるとその怒りとは、「年金問題や役人の天下りなど頭にくることばかり」ということだが、絵はそのような卑小な(失礼)怒りの内容からは想像できないようなダイナミックなもの。シンプルな作品 x シンプルな企画でナイスでした。

少し離れた別館では「20世紀西洋版画の展開」。作家23名の版画作品約70点。「キュビスムからシュルレアリスムそして抽象へ」って、どんだけ幅広いねーんとツッこんでしまいそうになりますが、要するに「当館所蔵の西洋版画を全部並べてみました」ということでしょうかね。

目録のトップにカンディンスキーがあったのでオっと思いましたが、1点のみ。1921年の「コンポジション」。その他ピカソのゲルニカ習作的作品や、ヘンリー・ムーアの彫刻のスケッチや、マン・レイ、ギュンター・グラス、ダリ、ボッチョーニなど私でも知ってる有名どころに、私の知らない人の作品がはさまってる。

一番長い時間足を止めたのが、ヴォスル(Wols)の作品。恥かしながらヴォルスについては何も知らなかったのですが、10点のエッチングにはどれもこれも圧倒されました。いずれも十数センチ四方の小さな作品は、微小生物の顕微鏡写真のようであり、メチャクチャにのたくりながらも精密微細に描かれた触手のような線は私そのもののレントゲン写真のようでもあり。久しぶりに、「普通のお父さんが見てはいけないものを見てしまった」なー、と感じさせるものでした。狂気をも凍らせるほどヤバいイリアがムンムン。

写真もやっていたようで、Webで幾つか観ましたが、これもただの丸ごとオレンジの写真が背筋が凍るほどの妖気を液晶モニタを越えても伝えており、たぶんオリジナルプリントを手元で観ると死にます。アマゾンを探すと写真集があったので即座にボチっと。ペーパーバックだから、観てもたぶん死にません。

子供がいるとなかなか美術展に行く気がしないのですが、T君が誘ってくれるので何とか足を運べます。T君いつもありがとう。そして、無理矢理自転車に乗らせてごめんなさいな。

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